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「揺りかご」がある、ふるさと暮らし

ガラス造形作家・宮田洋子さん

今回のJOINコラムにゲストとして登場していただいたのは、ガラス造形作家として工房「グラスミューズ」を運営されている宮田洋子さんです。

東京でひょんなことから手に入れたガラス造形のスキルを仕事とするために、故郷の広島県を活動の地と選んで以来、海と川を臨むアトリエでたくさんの作品を手がけてこられました。その宮田さんに、水辺に建つアトリエでの毎日の様子や、将来住んでみたい土地などについてのお話をうかがいました。

30分で行けるポニョの世界

私は今、広島県広島市の川辺に「グラスミューズ」というアトリエを構えています。ステンドグラスやモニュメントなど、建築物に付帯するアーキテクチャルグラスの造形が主な仕事です。
母が住む実家は車ですぐの所にあるのですが、実家から通勤するのではなく、ほとんどアトリエに住み着くような形で、数匹の猫と一緒に生活を楽しんでいます。
アトリエの建物は3階建ての古い倉庫ですが、この建物から見る景色は人に自慢できる美しさです。もともと牡蠣打ち(牡蠣の殻むき)場だったというこの倉庫は、川に面していて海にも近いため、しばらく前に川土手が造成されるまでは、3階の窓からのビューのほとんどが水面で占められていました。ここを訪れた人はよく「まるで船の中にいるみたい」と言ってくれたものです。 そうそう、30分ほど移動するだけで、映画『崖の上のポニョ』に出てくるような美しい瀬戸内の島々の景色も楽しむことができるんですよ。

「揺りかご」がある、ふるさと暮らし

ガラス工芸の道に入って20年以上が経ちますが、実ははじめからこの世界を志していたわけではないんです。

学生時代、美大ではグラフィックデザインを専攻していましたが、それらの勉強はほとんどせずに、踊ってばかりいました。実は私、全日本の大会で入賞したこともあるプロのダンサーだったんです。
ところが、体を痛めてダンスができなくなったため、それに代わる「自己表現できる何か」を求めて、2年間も「心の放浪」をすることになってしまいました。

そんなある日、街で偶然出会ったのがステンドグラスでした。ある会社で技術を教わり、「ステンドグラスをやる!」と心に決めたんです。
とはいえ、それまではまったくの素人だったわけですから、仕事を取れるアテはありません。まして家賃の高い東京では、アトリエを持つこと自体が無理だと感じました。残っていた選択肢は、ふるさとである広島に帰ることだけでした。 ですが、いま思えば広島での開業は正解だったのかもしれません。もの作りの分野では、プロとして一人前になるまでには、長い年月がかかります。
けれど地方出身者にとって、東京にはその間の自分を育ててくれる「揺りかご(お金のかからない衣食住の場と仕事場を得られる環境)」がない場合のほうが多いはず。人生のあるポイントから、新たな自己表現を探すことになった私にとって、ふるさとの存在はとてもありがたいものでした。

何の苦労もなかったアトリエ探し

実家を出て、現在のアトリエで仕事を始めたのは、約20年前のことでした。きっかけは、私が師と仰ぐドイツ人作家のルートヴィヒ・シャフラート先生のアトリエを訪れた時に、天井の高さに驚いたことです。
通常、大きなステンドグラスを作る際には、縮小して描いたデザイン画を、実寸大に拡大して壁に貼り、バランスの確認をしてから制作を始めます。ですから先生のアトリエくらい天井が高ければ、かなり大きな作品でも安心して制作に臨めます。 これに憧れた私は、帰国後すぐにアトリエ探しを始めました。建築関係の仕事相手に声をかけて回れば、いい物件が見つかるかもしれないと思っていたんですが……この期待は、いい方向にいきなり裏切られました。
実は最初に声をかけた人が、話を聞くなり「ちょうどいい倉庫があるよ。今から行ってみる?」と物件を紹介してくれて、そこに決まってしまったんです。拍子抜けするような感じでしたが、物件探しに労力を使わないで済んだのはありがたい話ですね。 物件を決めた理由は、2階の天井がかなり高かったことと、3階からの眺望の美しさ、それに夜にグラインダーでガラスを削って音を出しても問題なさそうな立地ですね。

地方のメリット&デメリット

東京ではなく地方で仕事を始めてよかったと思えるのは、デザインのヒントになる美しい自然の風景が身近にある点と、空間を安く自由に使えるという点ですね。
このアトリエは少し前に競売にかけられたため、自分で購入しちゃったんです。競る相手が多かったので当初の予定よりも高い額になってしまいましたが、それでも「東京じゃ何もできない」という程度の金額で落札することができました。
もちろん仕事以外にもメリットは少なくありません。ダイビングをしようと思えば自転車を5分こぐだけでポイントに着きますし、冬にスキーをする際にも、車で2時間かかりません。その他にも、瀬戸内の島に渡っておいしい空気を吸ったり、段々畑の上から夕日に染まる瀬戸内海を眺めたり……とにかく東京では味わうことのできない余暇の過ごし方が簡単にできてしまうんですね。
ただ、一方で東京などの大都会に対する憧れもあります。仕事上、最新鋭の素敵なデザインが取り入れられた建築物を常に見ていたいんですが……。まあ、そんな気持ちは、年に数回の出張やプライベートの旅行中に晴らすことにしています。

山で土をいじりたい!

とっても気に入っている広島の川辺のアトリエ暮らしですが、ここで最後まで活動を続けるつもりかと問われれば、「いいえ」と答えます。
実は「もっと山奥に引っ越したい」という気持ちがあるので、常に物件を探してはいるんです。
このアトリエでは、敷地いっぱいに建物が建っているため、自由にいじることができる土がありません。でも、ダイコンやニンジンを植るような家庭菜園をしてみたいという気持ちがわき上がってきてるんです。
私の作品は、植物や自然をモチーフにすることが少なくありませんから、常にそれらに囲まれていたいという気持ちがあるんです。ならば環境を「より田舎に」シフトするのが一番ですからね。
瀬戸内の島よりは、本州の山地のほうが、個人的にはいい「波動」を感じることができる。けれど周辺の文化度は高いほうがいい……。そんな感じで、いまはアーティストが多く住む長野や奈良あたりに憧れる気持ちがありますね。 まあ、すぐに移動するという話ではないので、ゆっくりと、今度は5年くらいかけて、次の土地を探してみるつもりです。

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