
JOIN大使・玉村豊男さん

エッセイスト・画家・農園主・ワイナリーオーナーという多彩な顔を持つJOIN大使の玉村豊男さんは、東京から長野へ引っ越して今年で25年目という田舎暮らしの達人でもあります。別荘地の外れで過ごす“ソフトな田舎暮らし”と、農村部の里山を耕して過ごす“ハードな田舎暮らし”をともに経験した玉村さんの目には、現在の地方移住の状況はどのように映っているのか……。
今回のJOINコラムには、地方での新生活を考えている方への、たくさんのヒントが詰まっています。
東京から軽井沢へと移った25年前、私は特に大自然に憧れていたわけでも、田舎での暮らしを夢見ていたわけでもありませんでした。「少しの間、東京を離れてみるのもいいかな」という、軽い気持ちでの引っ越しでした。 ところが軽井沢に行ってすぐにそこでの生活が気に入り、またたく間に田舎好きになってしまいました。
結局、軽井沢では8年を過ごし、現在の里山へ居を移したわけですが、今では「田舎でもいい」という妥協にも似た気持ちはまったくありません。田舎がいいのであって、都会に暮らす人たちに対して優越感を持っているくらいです。
東京に住んでいた頃は、地方在住者に対して憐れみの気持ちを持っていたことを考えると、まるで正反対の思いを抱くようになったわけです。

軽井沢から本格的な田舎に引っ越して農業をやろうと決めてからは、土地探しだけで2年もの時間をかけました。
なにしろ軽井沢の土地を売って、違う土地を、しかも農地を買うわけです。おそらく二度とそんな大金は作れない、後戻りはできないと考えましたし、「次に買う土地は、自分が死ぬ場所だ」という思いもありました。理想とする土地を探すのに、妥協したくなかったんです。
これから地方で土地探しを始めようという人には、「まずは自分がどんな状況を求めているのかを明確にするように」と言いたいですね。
ひとくちに「田舎で暮らす」といっても、どういう状況から暮らしを始めたいのかは本当に千差万別です。
たとえば周囲と完全に隔絶された環境で、井戸を掘って道路を造るところから始めたいのか、あるいはインフラ整備が進んでいる土地を探すのか……。
坪1万円程度の土地を買ったとしても、井戸掘りや造成などの作業が重なれば、最終的には坪3~5万円かかることもあります。購入後にかかるお金や時間に、大きく関わってくるからです。

とはいえ、あまりガチガチに「こうやって暮らすんだ!」と思い込むのもいけません。
都会を離れて田舎で暮らし始めると、大小さまざまなトラブルに襲われるものですし、これを避けて通ることはできません。そこで必要になるのは“トラブルを楽しむ気持ち”です。
これは「どこに行くにせよ過大な期待を抱かないこと」という意味でもあります。リサーチやシミュレーションは必要ですが、現実が違ったということは大いにあり得ます。そんな時に、肥大化あるいは固定された余計なイメージを抱いていなければ、現実とのギャップに苦しむこともないはずですから。
結局、どこで暮らそうと、ヒトが生きていくうえで気をつけるべきことや大切なことはさほど変わりません。あこがれを抱く場合も含めて、田舎で暮らすということに対して意識が過剰になっていると、かえって大変になってしまいます。
100人の人間がいれば、100通りの暮らし方がある……。たとえば田舎にだって、人付き合いが苦手な人はいますし、生きていけるんです。

そもそも、ある程度の年齢になった大人のライフスタイルや性格は、そう簡単に変わるものではありません。「田舎ではこう暮らすべきだ」なんていう思いこみは禁物ですし、思い込んだところで、できるわけもないのです。
たとえば田舎では、家の戸を叩いて返事がなければ、他人の家だろうと勝手に玄関に上がり込んでしまうような文化がありますが、さすがにそれは何年田舎に住んでいても私にはできません。その代わり、田舎の人も私の家には勝手に上がらなくなりました。自然とそういうことが伝わって、なじんでいくんです。
現在、私が住んでいる里山は、私が引っ越すまでの30年間、転入者がなかったという凄まじい集落でした。つまりその集落の人は、みんな生まれた時から顔なじみです。そこに後からよそ者が入っていったところで、完全に同化することはできないんです(笑)。

私が最初に農地を買おうと思った頃は、現在のように地方移住が関心を呼んでいる時代ではありませんでした。そのため「農業を始めたい」と役所に相談に行っても「どうせ失敗するだろうから面倒だ」と追い返されるようなことがありました。
それが今では、自治体ごとに研修制度や農業里親制度などのスキームが作られ、受け入れ体制が整いつつあります。とはいえ、個人が農業を始める時に行政ができる手助けは、そんなに多くないと思っておいてください。
法人でもない民間の個人を行政がサポートする仕組みは、まだまだこれからの世界です。農業を始めるにあたって、まず聞いてみる、相談してみるという姿勢は大切ですが、頼りすぎてはいけないというのが現状です。やはり、自分でやりきる覚悟を持って、飛び込んできてもらいたいと思います。
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