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吉備野工房ちみち・加藤せい子さん

今回のゲストは、岡山県の総社市を中心とした吉備地方でまちづくり活動を続けておられる、NPO法人「吉備野工房ちみち」代表の加藤せい子さんです。
以前は主婦としてPTA活動をされていたという加藤さんが、ボランティア活動を経てまちづくりのNPO法人を起こされるまでのエピソードや、その「突破力」の源泉はどこにあるのか、そして今後の目標などをうかがいました。
地方を輝かせるために大切なものが、ここにあります。

私は今、総社市を中心に、吉備野のまちづくりを進めています。活動を始めてから約10年が経ちました。当初はボランティアとして動いていましたが、2008年5月にNPO法人を起業し、地域と行政の間でさまざまな声を拾い上げる中間支援のような形で活動しています。
活動をはじめたきっかけは、神戸で起きたある凶悪事件です。私の娘が中学校に入学したころ、少年が児童を連続して殺害するという事件が発生しました。その事件報道を見て思ったのは「子供たちが生きにくさを感じたりモンモンとした感情を抱えてしまう背景には、周囲にいる大人の生き方が反映されているのではないか」ということでした。
子供たちは、子供たちなりに皆がんばっている。だったら大人もがんばっている姿を見せなきゃならない。そう思って始めたのが、まちづくりのボランティア活動だったわけです。
当時、娘が吹奏楽を始めたこともあって「音楽を通してホンモノを伝えていきたい」と考えて、さまざまなイベントやフォーラムを企画しました。もちろん活動には一生懸命取り組んでいましたが、まさか将来的にNPO法人を立ち上げるようになるなんて、夢にも思っていませんでしたね。

ボランティア活動の最初の企画は、アーティストを呼んで開催するコンサートで、1000人収容の会場を満員にしようというものでした。今考えても「最初のイベントでそんな大きな企画を」という感じですよね。事実、周囲からは「イベントが地域になじんでないのに、成功するわけがない」「集められるのは多くて200人」と言われたものです。
アーティストを呼んで開催するイベントですから、人が集まらないと大きな赤字も出てしまう。ノウハウも持っていませんから、スムーズに進まないと怖くなりましたし、自分で「何やってんだろう」と落ち込んだりもしました。一緒に活動していた友人たちと集まって「どうしよう」と話し合ったりもしました。でも「腹をくくろう」という結論しか出なかったんです。
ところが、腹をくくってしまったら、その時点から物事が動き出すんですよね。「失敗したって命までは取られない。借金するだけだ」という、一種の開き直りですけど、それによって目の前が開けるし、動き始めるんです。
そうして腹をくくって動き回った結果、イベントでは1000人どころか1300人を動員できました。その時に改めて学んだのが、「大切なのは結果ではなく、プロセスなんだ」ということです。今の私があるのは、初めてのボランティア活動でそう思えたからこそだと思っています。
その後も「なんかよくわからんが、あんた一生懸命だから応援してやるわ」という感じで応援を集めることができました。人の心を動かす一生懸命な姿というのは、あくまで結果じゃなくプロセスにあるものなんだと思います。

大切なのは結果ではなくプロセスだと思っているものですから、活動についても明確な数字や言葉の目標を持っているわけではありません。
言葉も数字も、感覚の補足でしかありませんからね。大切なのは、感じたり思ったりすることです。何かの形をつくるうえでも、プロセスを積み上げる必要があって、そのプロセスこそが大切だと思っていますから、目的を明確にしにくいんです。
いまの活動の目標はと聞かれた場合、大きく言えば「みんなが幸せでいられればいいな」という感じでしょうか(笑)。でもそのために具体的に何をすればいいかといえば、現在やってることを積み重ねるしかないわけです。
活動の指針としても「つぶやきを言葉にして、次第に形にしていく」「点で活動している人たちの悩みをヒアリングしたり一緒に考えることで、点を線にして面にしたり、薄い部分を埋めていきたい」という……なんだか曖昧な表現になっちゃうんですよね。その結果として、地域が輝きを放って、人が幸せになれるといいなと思っています。
またもや曖昧な言葉になりますが、私の中ではまちづくり活動とは「紆余曲折を経て目的にたどり着く」というよりも「小さなことを積み上げて高いところにたどり着く」というイメージです。もちろん今後も、この感覚は変わらないだろうと思っています。

たとえば吉備野への移住者や観光客を増やしたいかと聞かれれば、もちろん増えてくれればいいなと思っています。けれど私たちは、それを直接の目標にしているわけではありません。
その前に「街を耕す」作業が必要だからです。土をおこして種をまいて、育てる。その結果として、街が耕されて光り輝く花が咲く。その花が咲き続けているからこそ、人が集まってくれるんだと思っているんです。輝いていないところに人を呼んでも誰も感動しませんし、長続きしませんからね。
私は今、内閣府の「地方の元気再生事業」に協力させてもらっています。タイトルは「古ツーリズム プロジェクト」といいます。この吉備は、その昔は文化が栄えた、豊かな共同体が息づいていた土地だと感じています。でも現状では、その土地を活かしきれてはいません。地元の人も、そうした「財産」があることに気づいていないんです。
ですから当面は、外にPRするより先に、自分たち自身への「気づき」を得ることが目標ですね。気づきの後に、耕してみて、土地を磨いて育てていく。そうすることで、観光客も移住者も増えていくのかなと思っています。楽しい土地には、何もしなくとも人は集まってきますから。
過去は変えられないものですが、その過去を財産として育てることで、未来は変えられる……これは常々思っていることです。

私たちは2008年の9月から10月にかけて、「みちくさ小道」というイベントを行いました。町歩きエコツアーや音楽やアートのイベント、各種の体験プログラムや地元グルメの紹介など、20日間で15のプログラムを実施しました。
その中に「吉備路八十八ヶ所の旅」というプログラムがありました。地域を耕す意味で、地元の石仏などを巡り歩くものでしたが、これは参加者以外の方にも少なからず影響を与えられたかもしれません。たとえば、ある石仏について、地域の方たちと一緒に周辺の掃除して、杭を打ち直して、エプロンをかけ直す。そうすると、地域の方々が、その後も手入れをしてくれるようになったんです。
これだけでも、地域が輝き始めたと言えるでしょう。「みちくさ小道」という私たちのイベントをツールとして、「気づき」を与えられたのかなと、うれしく思いましたね。
これ以外にも、地元の人々が、それまで何十年も住んでいて気づかなかった点に気づいて驚くというシーンに何度もお目にかかりました。普通、観光地は外に向かって情報を発信するものですが、違うやり方もあるんだということに、私自身も気づかされましたし、励まされたものです。
「みちくさ小道」は今後も継続的にやっていこうと思っています。私たちはこれをスモールビジネスの苗床にしていきたいし、商いトライアルの場にもなればいいなと思っています。そして、みんなで地域を耕して輝かせている大人の姿を、子供たちにも見てもらいたいですね。
加藤せい子ブログ「オードリーな日々」 http://blog.canpan.info/kibino/
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