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田舎暮らし特集

タイロン橋本(推薦自治体:栃木県矢板市)

JOIN大使

Q. あなたの「移住」について教えてください。

地方移住や二地域居住に興味を持ち始めたのは、母の実家であった栃木県矢板市の古い家を相続することになったことがきっかけでした。その家は明治28年に建てられた古い屋敷です。どうやって管理したらいいか当初は不安でしたが、矢板市農業公社の方から声をかけていただき、地方移住と地方交流促進のために使っていただけることになりました。

これまで僕は「田舎なんて大嫌い」という感覚を持っていました。矢板市の屋敷の周りは山菜や果物も採れますし、昆虫採集だってし放題の自然豊かなところです。でも、その自然環境が嫌いだったんです。ある日、友人からタケノコ掘りを頼まれました。本当はイヤだったんですが(笑)、仕方なくタケノコを掘っていくと、友人はタケノコご飯をつくってくれました。タケノコご飯を味わったときに、僕の中に「田舎好きの感覚」と「自分で採ってきたものへの誇り」が生まれました。自分で「収穫」をしてみると、第一次産業のことを理解できたような、内から湧いてくる感動がありました。

僕は田舎を出ていきなりアメリカへ行って、それまでハリウッドの世界にどっぷりつかってきました。日本の芸能界よりも何倍も濃く、シビアで生臭い「金の切れ目が縁の切れ目」のような世界を目の当たりにしてきました。僕は、そんな世界に嫌気がさして、金では買えない精神的な充足を求めるようになっていました。だからこそ、矢板の田舎で感じた幸せが、すごく大切なものに思えたんです。僕は黒人音楽を愛し、その研究を続けています。そして、この仕事は「戦い」だと思っています。音楽の創作活動という戦闘は、感覚が研ぎ澄まされる場であり生存競争にもさらされる都会でしかできないと考えています。

実は癒やしの空間であり、そこにいるだけで充足してしまう田舎では、闘争心が湧いてこないため、仕事ができないんです。何度か楽器を持って田舎で作曲をしてみようと試みたんですが、自然の音を聞いているだけで癒されてしまう田舎の環境では、非常に動的な黒人音楽の作曲はできませんでした(笑)。

でもその時に、逆に思いました。動的な仕事ではなく静的な仕事……たとえば絵画や工芸といった創作活動を行うには最適なんだろうなと。まだ戦いの仕事を続けるつもりの僕にとっては、仕事の場として不向きなこの田舎も、そうしたものを求めない人にとっては天国なんじゃないかということです。都会にいて、都会でしたいことがあるという人まで、田舎に行く必要はありません。でも、そうでもないという人ならば、皆さん田舎に行ったほうが楽しいと思うんです。何しろ田舎では、金では買えない心の充足を簡単に得ることができますから。

profile

栃木県矢板市生まれ。
黒人音楽を追求するマルチシンガーソングライター。ティンパンアレイ、オルケスタ・デル・ソル等を経て、現在まで幅広い音楽活動を日米で展開し、600以上のTVCMソングプロデュースも手掛ける。音楽活動のかたわら、自身が所有する築100年を超える古民家を矢板市農業公社に提供し、地域のまちづくりシンポジウムに参加するなど、地域活性化の取組みに深い理解と協力を行っている。

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