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田舎暮らし特集

山田昌弘教授が語る、結婚しない日本社会のこれから

30代のおよそ3人に1人(34.0%)が未婚、婚姻件数も過去最低を更新しつづけています。
先進国の中でも群を抜く、高い未婚率にはどんな背景があるのでしょう。また、都心と地方での婚活状況・結婚観には違いがあるのでしょうか。「パラサイト・シングル」「婚活」などの言葉を生んだ家族社会学者・山田昌弘教授と、「エキサイト婚活サービス」を手がけるエキサイト株式会社メンバーシップサービス部・曽田暁乃さんの対談から、日本の今を見ていきます。

——結婚しない若者が増えている背景にはどんな社会動向があるのでしょうか。

山田:一番大きいのは経済的な理由だと思います。20~30年前まで、社会に出たらほとんどの男性が正社員、あるいは自営業の跡継ぎになれることが決まっていて、結婚後の生活に不安はありませんでした。ところがバブル崩壊後、とくに1997年以降、企業や役所は、従業員全員を終身雇用の正社員を雇う余裕を失っていきます。40~50代の中高年をクビにするわけにはいかないので、これから入ってくる若者を、正社員になれる人となれない人に分けざるを得なくなった。こうして、非正規雇用が一気に増えていったのです。
安定して収入が上がっていく保障がなくなれば、結婚しても親たちの世代以上に豊かな、あるいは同等の生活を送れる確約はありません。結婚してこれまで以上に貧しい生活になるのなら、実家にいた方が安心です。こうして、いつまでも親と同居する「パラサイト・シングル」が生まれ、結婚へ踏み出せなくなる。これが基本的な原因です。

曽田:なるほど。先生は2004年に「格差社会」という言葉も作っていますよね(※『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』山田昌弘・筑摩書房より)。

山田:そうですね。20代、30代の若い男性の間で正社員とそれ以外の格差が生まれています。加えて、まだまだ性役割分業意識が強く、「結婚したら夫の収入で生活するのが当然だ」という価値観が日本では根強いのです。「夫が非正規雇用なら私が大黒柱として稼ぐわ」とはなかなかならないため、結婚率は上がりません。

——未婚率は東京都がもっとも高く、25年以上前から変わっていません。都心と地方での結婚観の差はあるのでしょうか。

山田:都心に行けば行くほど、収入格差が広がっていきます。一方、地方は、高給取りで安定収入の人は少ないけれど、周りもみんな同じように“そこそこの”収入。「こんなもんだ」と思えるから結婚するのでしょう。
日本は世間体社会なので「周りにどう見られるか」が、行動の大きな判断基準になります。インターネットの普及によって、その傾向はさらに加速したと思っていますが、「人から恥ずかしいと思われる生活をしたくない」という意識がとにかく強い。都心で非正規雇用の彼と結婚するなんて言ったら周りになんて言われるだろう…ということが先に立ち、結婚相手として選択肢にも入らないという方は多いと思います。

曽田:なるほど。「エキサイト婚活」では、“相手に求める年収”に関するデータをとっているのですが、まさにその傾向が出ています。女性会員は年収200~400万円の方が一番多いのですが、相手に求める希望年収を400~600万円と答える方がもっとも多くなります。600万円以上を求める層も含めると全体の7割です。ただ、地方在住の女性に限定すると、相手に求める希望年収を200~400万円と自分と同じ金額を求めている割合が一番多いんです。

山田:400万円以上もらっている男性が周りにいないとそうなりますよね。いまや「年収600万円以上」の未婚者なんて、数パーセントしかいないということが情報として広まっていますから、現実を見るようになったといえるかもしれません。

曽田:そうですね。私も相手に求める年収ってもっと高いのかと思っていました。ただ、女性会員に対して「自分より年収が低い男性との結婚」についてを聞くと「考えられない」が6割で圧倒的に多いです。

山田:まあ、そうでしょうね。「相手の年収が低いなら自分ががんばるか」という女性はまだまだ少数派です。

曽田:ちなみに、男性会員は「自分より年収高い女性」はかなり高収入でも歓迎する方が多いです。

山田:うんうん。今では、「僕の妻は、自分より年収が高い」って羨ましがられることもでてきました。男としてのプライドが…などと言う人がいますけど、世間体社会においては、夫婦間のプライドよりも、外からどう見えるかの方が大事。年収は黙っていればわからないですしね。

——男性と女性、それぞれが相手に求めるものも時代によって変化はありますか。

山田:今、恋愛と結婚はどんどん分離し、恋愛結婚は衰退しつつあります。

曽田:まさに先生が作った「婚活」という言葉にあるように、活動をしないと結婚できない時代になっていますね。

山田:30年前は誰と結婚しようが生活の安定は保障されていましたが、今では、まずは結婚できる、つまり生活の安定が叶う相手を絞らないといけない。結婚できない相手と恋愛するのは、時間もお金も無駄となるので、「婚活」が効率的な方法になるわけです。一方で、経済的な不安があるから家族を求める、という意識も強まっています。2010年に内閣府が行った「結婚したい理由」調査の、女性の第2位は「老後一人でいたくない」です。ちなみに、第1位は「好きな人と暮らしたい」で、ここは変わりません。

曽田:そこは純粋な理由なんですね。「エキサイト婚活」で、結婚する相手に一番求めるものは何か調査したところ、女性は「性格が合うこと」でした。一方、男性は「見た目」で4割もいたんです。やっぱり男性って視覚で恋をするんだ…ってすごく印象に残っています。

山田:もはや、それは恋なのかプライドなのか、微妙なところでしょう。男性って、「男の格は“彼女や妻がいかに美しいかで決まる”」と思っている人が多いんです。結婚式で新婦の姿を見て「なんであの人と結婚したの?」と聞かれますし、男の嫉妬ってすごいんですから(笑)。「なんであいつがあんなキレイな人と結婚できるんだ」って、そういう嫉妬の渦の中で育ってきていますし、上下関係が大事なので“格”で他人に負けたくない。自分のためよりも、周りに自慢できるようにキレイでいてほしいという男性は多いと思います。

曽田:うーん。確かに女性同士だと見た目に関して嫉妬し合うのはあまり聞かないですね。

山田:そうそう。見た目と結婚との関係について研究をしている友人もいます。私が聞いた話では、女性が相手の見た目を気にするのは、将来生まれてくる子どもに関わってくるからだそうです。例えば「女の子は男親に似るというから、夫はハンサムな方がいい」というように。決して自分がイケメンを眺めていたいのではなく、子どもによい条件を与えことが大事なんです。

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