長野県佐久穂町×小海町 現役協力隊が語る「地域で自分らしく生きるには」

左:副島 優輔さん(佐久穂町地域おこし協力隊) 右:高橋 涼さん(小海町地域おこし協力隊)

 

Vol.101 長野県佐久穂町【現役隊員】-副島 優輔さん /長野県小海町【現役隊員】-高橋 涼さん

 

長野県南佐久郡の佐久穂町と小海町では、隣接していることや同盟を結んでいることもあり、地域おこし協力隊同士の交流も盛んに行われています。地域という枠を飛び越えて課題を共有し、協力して解決方法を探っている佐久穂町の副島優輔さんと小海町の高橋涼さんのお二人の対談をお届けします。

高橋 副島さんと初めてお会いしたのは、両町が合同で行っている移住体験ツアーの打ち合わせの時ですね。

 

副島 その時は軽く挨拶を交わしたくらいで。

 

高橋 仲良くなったのは、小海町と佐久穂町が合同で協力隊の活動報告会をやることになったからだと思います。

 

副島 これまでは報告会をそれぞれ町単独で行っていました。でも、活動後のことを考えたら、一つの町の中で閉じるのではなく、合同で行った方がメリットが多いということで合同という形になりました。

 

高橋 報告の方法もただ発表するのではなく、両町の協力隊同士でペアを組んで、相手の活動を取材してそれを報告するという他己紹介の方法をとりました。

 

副島 せっかく合同で報告会をするなら、その方法もクロスさせたいというチャレンジです。結局、コロナウイルスで中止になってしまいましたが。

 

高橋 中止にはなってしまいましたが、交流の良いきっかけになりました。地域という枠を越えて、協力隊同士の繋がりが強くなったと思います。

 

副島 あるいは制度面のルールの解釈がそれぞれ違うことに気づいたり、協力隊の制度について考える機会になりました。

 

高橋 これからどうしていけばいいかを考える機会にもなりましたね。

 

副島 私たちはたまたま、デザイナーと映像制作というアウトプットの分野を持つ同士でペアになりました。そういう人間が活動終了後に生きていくためには、経済を回していくためにはどうしたらいいのだろう?という共通の課題を抱えていて。改めてこういう繋がりができたことにより、共同で探ってみようという流れで今に至ります。

 

高橋 現在は、協力隊の研修に知見のある方々に相談しながら、協力隊が任期後も自立して生きていけるような研修づくりに協力して取り組んでいます。

 

高橋 ここ最近、副島さんには小海町によく来てもらっています。副島さんから見た小海町はどうですか?

 

副島 面白いと思ったのは、小海駅が周辺の町村のハブとして、一つの中心地になっているところです。さまざまな拠点が存在していて、小海駅が周辺の生活の基点になっている。小海駅ほどの駅は佐久穂町にはありません。歴史的にも南佐久郡の大事なところになっていたんだなと思いました。

 

高橋 ありがとうございます。佐久穂町は、大日向小学校という外から来たくなるような大きな仕掛けがあって、それがちゃんと広まっている感じがします。大日向小学校を目指して集まってきた人たちからも、新たな文化が芽吹いているように見えます。

 

副島 協力隊制度に関していえば、小海町はある程度レールを敷いた状態で迎え入れるイメージ。佐久穂町は、隊員に共通ミッションを用意したうえで、任期中にそれぞれ好きなことで食べていけるようにしてくださいねという感じです。どちらが良いということでもないが、一つの町にだけいると、それが当たり前になってしまう。改めて小海町の人と話をしていると良い刺激になります。

 

高橋 隣同士だけど、それぞれの課題感も全く違いますよね。

 

副島 佐久穂町は、任期中に自分の好きなことを自分で見つけるので、個人の責任で猛烈にやらなければなりません。小海町はやりたいこともできるけど、自由度は低いかもしれない。

 

高橋 私たち協力隊自身が、その責任と自由度をしっかりと飲み込む必要があると思います。隣りあった町でも、両極端の協力隊制度の使い方ですね。

 

副島 佐久穂町にしろ小海町にしろ、人口規模的に町内だけで完結するというのは難しい。いかにオープンにしていけるかという課題があります。ある程度近いエリアで繋がって、経済を回して食べていける人が増えていけばいい。理念や方向性、世界観が共通する人だったら、どこに住んでいようが関係ない。商業圏として広げていくためには閉じていてはならないと思います。

 

小海町地域おこし協力隊 高橋 涼さん

 

 

高橋 行政の方との関係はどうですか?

 

副島 行政の方は、町のことを詳しく教えてくれる人。雪かきとかタイヤ交換のタイミングとか、美味しい飲食店とか。

 

高橋 たくさん教えてくれますね。「野菜をもらったんですけど、どうすれば美味しく食べられますか?」とか聞いちゃいます。

 

副島 そうそう。生活していくうえで聞きたいことを相談しやすい。

 

高橋 行政の方は生活にとっては一番のロールモデルですよね。

 

副島 生活面でとても相談に乗ってくれて助かります。

 

副島 町民の皆さんも、協力隊ですって名乗るだけで、「頑張ってね」と声をかけてくれる。初対面でも応援してもらえる特殊なポストだなって。協力隊という役割は、人と繋がる時にプラスをもたらしてくれる。

 

高橋 話が早いですよね。先輩の協力隊がちゃんとやってくれていたから、町の人も信用してくれる。

 

副島 協力隊で来たことが大事だと思っています。

 

高橋 移住するにあたって、協力隊として来たことが?

 

副島 ふらふらと地域を歩いていても、協力隊と名乗るだけで信用されることがすごい。実際、南佐久郡の町村を案内してもらったことがあるんですよ。

 

高橋 南佐久郡全部?

 

副島 そう。一日かけておじさんが運転してくれて、いろいろと教えてくれた。

 

高橋 すごい。

 

副島 地縁が強い繋がりの中に、よそ者が入ることは難しい。でも、協力隊ってだけでふらっと入っていける。

 

佐久穂町地域おこし協力隊 副島 優輔さん

 

 

高橋 もう少し協力隊という仕組みを掘り下げてみましょうか。

 

副島 自分が入る地域を判断する力は求められるのかなと思います。

 

高橋 協力隊に応募する前の段階で?

 

副島 そう。これは他人のせいにはできないところだと思う。一方で、仕組みとして孤立しやすい構造の中で、個人の努力だけじゃ辛すぎる部分もある。そういう構造があるんだったら、対症療法的にはなるけど、横の繋がりを作るとか、そもそもの原因となる構造に触るべき。やっぱり、今の協力隊の構造として、個人に委ねすぎている感はあります。

 

高橋 現役で協力隊をやっているからこその目線ですよね。嫌なら帰ればいいとか、最初から違う地域にすればよかったじゃないかという見方もあるかもしれないけど、チャレンジして適正な努力をした人はある程度報われてほしいと思います。

 

副島 そういう制度があればいいのにね。「地域チェンジ!」みたいな。

 

高橋 一つの解決策かもしれない。着任前にお試し期間として2か月くらいあって、最後に「あなたは本当にこの町に住みますか?」みたいな。現状だと移住前にあるのはあくまでも見学レベル。正直なところ、生活も仕事も本質は見えない。移住の初手として協力隊は地域に入りやすい一方で、出ていく時に「協力隊をやめる」ということになる。地域が合わなくて引っ越すということが、「協力隊をやめる」という話になってしまう。

 

副島 成果を出さなくても収入があるという何度でも失敗できる状態。使い勝手のいい制度という反面、ものすごくセルフマネジメント力が問われる。

 

高橋 わかります。

 

副島 テレワークなどでもそうだと思いますが、「自分サボる癖あるな~」みたいなのに直面する。

 

高橋 素の部分が出ますよね。これまでは雇用という形で保たれていた部分。

 

副島 自分の嫌な部分もよく見える。研修とかも、会社として受けろではなく、「自分はここが弱いからこれを学ぼう」という動機で受けるようになった。自分に足りないものを毎日考えるようになった。

 

高橋 本当の自分のニーズが見える。

 

副島 「お前は何者なんだ?何ができるんだ?」みたいなものを日々突きつけられる。

 

高橋 個人的には、この協力隊時代の丸裸にされる経験は良い経験になりそう。

 

副島 チャレンジし続けるには本当にありがたい制度。

 

高橋 利益を考えずに挑戦できる環境はなかなか無い。

 

副島 その代わりに社会をより良くするために時間を使おうと思います。

 

高橋 「社会のために」という考えは昔からありました?協力隊時代に養われた?

 

副島 もともとそういう思考でした。でも、会社にいると社会貢献だけでは許されない。自分は社会貢献をやりたいのに、違うことを求められていた。

 

高橋 協力隊になって解き放たれた感じですね。私は逆にこれまで社会貢献を考えたことがなくて。でも、こういう風に地域に入って、地域の人が利害関係を越えて優しくしてくれる経験。その経験の中で、人のため、地域のためという考えが生まれました。

 

副島 人のモチベーションはさまざま。自分の好きなものやワクワクする所に自分をちゃんと置くことが大切だと思います。

 

高橋 協力隊に必要なスキルですね。セルフマネジメントの重要性は入ってみて気づいた部分でした。

 

副島 いろいろと顔を出してみて、自分の置き所というのは気付く部分かもしれません。協力隊のスタートがそうだよね。どの地域に入るかという選択。この地域のこのミッションに自分を置いたら、自分はすごい活きることができるかもしれないという考え方。

 

高橋 私がまさにそうでした。自分が楽しく生活できる場所を探していたら、いつのまにか小海町にいた。協力隊という生き方が、この対談を読んだ方の選択肢の一つになればいいなと思います。

 

(2021年1月掲載)

 

関連リンク

佐久穂町自治体ページ

小海町自治体ページ