動画づくりを通して新たなコミュニティを創出。いつものまちの景色が好きになっていく

立山黒部アルペンルートの玄関口として知られる長野県大町市。豊かな自然を求め、アウトドアアクティビティに訪れる人が多い地域です。
その魅力を、市外から訪れる人はもちろん、在住の市民一人ひとりに改めて感じとってほしい。そんな思いから生まれたのが、市民参加型の動画制作プロジェクトです。

制作したのは、大町市でアクティビティを楽しみながら暮らしている移住者へのインタビュー動画。プロジェクト参加を市のホームページやSNSで公募し、手をあげた約10人のメンバーとインタビュー内容を考え、実際に取材し、その様子を撮影しました。撮れた素材はプロの映像監督が編集し、市やポニーキャニオンの公式YouTubeチャンネルで2021年春ごろに公開される予定です。

プロジェクトの一番の特徴は、「市民の皆さんが動画制作に携わり、自分たちで自分たちのまちの魅力を伝えるプロセスにある」と左右田さんは話します。

「プロジェクトメンバーは、市内の高校生から60代以上の方まで、移住者もいればずっと地元で暮らしている方までさまざまです。大町市のPR動画を作るという一つの目的のために、普段かかわりのない人が新しいコミュニティを作り、ディスカッションしながらコンテンツ作りに携わっている。それぞれが持つ“大町の好きなところ”を話す中で、これまで気にも留めていなかった良さ、知られざるまちの魅力に気づくきっかけになったのではないかと思っています」（左右田さん）

プロジェクトでは、ポニーキャニオンの動画撮影のプロが大町市を訪れ、ワンデーワークショップを開催。スマホを使った効果的な撮影手法のレクチャーに、参加者は熱心に実践しながら学んでいったといいます。
しかし、ポニーキャニオンの有江さんは「クリエイティブとしてのインタビューの見せ方、撮影のアングル、音楽などはあくまでも“引き立て役”」だと話します。


「プロジェクトには、移住者インタビューによって移住促進につなげる意図もありますが、もっとも重視していたのは、大町市の皆さんの地域愛を高めることでした。そこで参加メンバーには、全員で取り組むインタビュー撮影に加え、それぞれが好きな風景、場所、ものなどを撮ってきてもらうことにしたんです。撮るという行為によって自分のまちを客観視すれば、新鮮な発見があるはずです。ワークショップでは『大町のあの場所を撮ったらいいんじゃないかな』『あのお店もいいよね』『私はドローンを飛ばして俯瞰で景色を撮りたいな』などといろんなアイデアが出てきました。
ポニーキャニオンのプロのクリエイターがかかわることで、見るものを引き込むクオリティの高い映像に仕上げていくことはできます。でも、あくまでも主軸は市民の皆さんが自分たちで作っていくプロセスにあります。一人の映像作家が動画を作るのでなく地元の視点が多様に入ることで、短いオムニバスムービーが完成するのではないかと今からわくわくしています」（有江さん）

さらに今回の動画では、撮影素材のほかに音楽も大町市在住の方に作ってもらったといいます。

「ワークショップで大町を訪れたとき、地元に作曲をされている方がいると聞き、その方にお願いすることができたんです。音楽までも大町で作られ、まさに“メイド・イン・大町”が実現できた。大町の方とコミュニケーションを重ねるたびに、『こんな面白い人がいるよ』『あの人に聞いてみたら？』などとネットワークが広がっていくのは、非常に刺激的な経験でした」（有江さん）

制度面のPRや市に関するデータなど、資料だけでは伝わりにくい地域の魅力。生の声を集めYouTube動画を発信することで、これからどんな反響があるのか。21年春の完成を楽しみに待ちたいと思います。