- 田舎暮らし特集
- 工房を持つ夢と豊かな生き方を叶えた移住先
木工作家のような工芸家は、基本的に一人でクリエイティブを生み出す職業だ。とはいえ、同業者が近くにいるだけで悩みも喜びも分かり合うことができる。榎並谷さんも例外ではなく、高島市に移住したことで小田切さんという木工作家の心強い仲間ができた。
小田切さんは、「一人で高みに上がっていくのは大変ですが、仲間がいればお互いに刺激を受けながら成長できます。特に、榎並谷さんとは年齢が近いため、直面している壁や悩みなどもリアルな意見を交わして分かり合えるのが嬉しいですね。しかも作風が違うので、展示会を一緒に開催できるのも良い。家族ぐるみのお付き合いもしていて、最高の仲間を持てました」と語ってくれた。
工芸家の作品は、取り巻く環境や触れるモノ・見るモノ・考え方・価値観がそのまま形になる。そのため、余計なモノが目に入りづらい"程よい田舎"の高島市は、モノ作りの場所にちょうど良い。
もちろん、収入面だけで考えれば都会で仕事をした方が良いこともあるだろう。だけど、豊かさはまた別の問題だと小田切さんは言う。「結果を出すことを焦ってしまうと、本当にやりたかったことができず、作りたかったモノも作れなくなると思うのです。
家具や木工作品などの工芸品は、「売れる」という結果が2年後に出ることも多々あります。都会で工房を構えるとすぐに結果を出さなければ生活が苦しくなると思いますが、高島市なら家賃も安いし自然に囲まれているので、1カ月間収入が無かったとしても心穏やかに生活ができる。
年間を通して収入が確保できれば良いと思えるから、本当に作りたいモノを作れるんだと思っています」。
榎並谷さんは、「好きな仕事をするために、この場所で生きる」という選択をした。もちろんそこには大きな覚悟が必要だが、高島市には榎並谷さんのような木工作家はもちろん、陶芸家、染織家、ガラス工芸作家など、ものづくりに生きる人々が多く移り住んできている。
2011年からは、そうした移住者と地元の工芸作家が工房を開放し、人々と交流するイベント「風と土の交藝」がスタート。イベントを通じて高島市に在住している工芸作家同士の横のつながりも年々深まっている。
この土地には、移住者を快く受け入れる風土があり、お互いに理解し合える仲間が増えることを幸せだと思う文化が根付いているのだ。