Interview隊員インタビュー

「何もしない」を届ける観光PR
兵庫県姫路市 家島諸島 岡庭友梨さん瀬戸内の風が、やさしく迎えてくれた日
瀬戸内海の真ん中あたり、兵庫県姫路市の沖合に浮かぶ家島(いえしま)諸島。
姫路港からフェリーで約30分。デッキに立つと、港町のざわめきが遠ざかり、潮の香りと波の音が近づいてくる。海風が髪を揺らし、次第に日常の感覚が薄れていく。
この島で観光PRを軸に活動しているのが、地域おこし協力隊の岡庭友梨さん。
旅行会社で全国を飛び回っていた岡庭さんが、なぜこの小さな島々に惹かれ、橋の架からない離島の観光PRに力を注ぐことになったのか。
家島諸島を初めて訪れたのは「おためし地域おこし協力隊※」への参加。
家島の名前も存在も知らなかったけれど、港に降り立った瞬間に「ここだ」と感じた。島の人の笑顔や、路地の先に見える海――
目に見え、肌で感じるものすべてが、都会では得られなかった安心感を岡庭さんにもたらしました。
※おためし地域おこし協力隊とは、主に2泊3日という期間で、地域住民との交流や協力隊着任後の業務をおためしで体験できる制度です。

茨城県出身。旅行会社でツアー企画・販売を担当。全国各地を訪れる中で、地域と深く関わる働き方を志す。2024年に「地域おこし協力隊」として家島を訪れ、移住・着任。
活動概要は観光PR(SNS運用、パンフレット制作、観光イベント出展)、島内外への情報発信、来島者向けの企画立案など。
【家島諸島ナビ】姫路市地域おこし協力隊 @himejicity_chiikiokoshi

Q1. 地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
昔から地方移住や島暮らしに興味がありました。大学進学で上京し、卒業後に旅行会社でツアーを企画・販売する仕事をしていたとき、全国各地を訪れ、現地の方と話す中で「地域と一緒につくる仕事がしたい」と強く感じるようになりました。
単に商品として地域を“売る”のではなく、そこで暮らす人たちと一緒に盛り上げていく仕事。そう考えていたときに地域おこし協力隊を知り、たまたま見つけた姫路市家島諸島の「おためし地域おこし協力隊※」に参加しました。
初めて家島諸島に訪れた日は冬の澄んだ空気の中。港で迎えてくれた人の笑顔、船着き場から見える穏やかな海――
その瞬間、「ここに暮らしたい」と強く思いました。
Q2. 協力隊の活動ミッションを教えてください。
私の場合、家島諸島での協力隊活動は「フリーミッション型」です。
行政が求める内容や地域からの要望に沿っていれば、公務員という立場に立ちながらも、自分の興味のあることにフォーカスして活動することができます。
そのため、最初から決まった業務はなく、自分で課題を見つけて活動をつくります。
私は着任時に「観光PRに全振りします」と宣言しました。活動に対し肯定的に捉えてくれる方が多く、応援してもらえました。
活動は、Instagramの運用やパンフレット制作、観光イベント出展など多岐にわたります。専門的なPR経験はありませんが、家島諸島が好きという気持ちが何よりの原動力です。

Q3. 活動1年目、2年目、3年目の計画はどのような内容でしたか?
1年目は関係づくりが中心でした。地域行事に参加し、島内を歩き回り、観光ルートを試しながら改良しました。友人を案内しては感想を聞き、改善点を探しました。最初は「何もできていない」と感じましたが、小さな積み重ねが次の動きにつながっています。
2年目はパンフレット制作とイベント出展に注力。姫路城のお祭りに初めて家島諸島のブースを出展し、直接PRの場をつくりました。準備では、島内の事業者や住民からアイデアをもらい、SNSと紙媒体を連動させる形にしました。
3年目は、島にとって本当に必要なことを見極め、自分の役割を明確にする予定です。「帰れる場所をつくる」という原点をどう形にするかを考えています。
Q4. 活動中、自治体・受入団体からはどんなサポートがありましたか?
姫路市直雇用のため、上司は市役所の担当者です。活動やSNS投稿も事前に相談しながら進め、月1回の面談や日々のやり取りで伴走してもらっています。守られている安心感と、大きな裁量の両方がある環境です。
私の場合、住まいは市の借り上げ住宅で家賃負担はなく、住宅トラブルや害虫対策にも対応してもらえます。何か困りごとがあった時も、相談すればすぐにサポートしてくれるので心強いです。

Q5. 活動地である兵庫県姫路市家島諸島の魅力は?
人との距離が近く、優しさが自然にあることです。体調を崩して寝込んでいたとき、玄関にそっとお惣菜が置かれていました。気を遣わせない気遣いが、家島諸島らしさだと感じます。
自宅まで荷物を届けてくれる配達員さんも顔見知りで、「今日荷物あるけどどうする?」と電話がかかってくることもあります。港を歩けば必ず誰かが声をかけてくれる。景色や空気の穏やかさと、人の温かさが同居しています。
島の人たちは「何もない」って言うんですけど、それが一番の魅力だと思います。何もしなくていい、その時間こそ贅沢なんです。予定も急かされることもなく、ただ海を眺めて過ごす。そういう時間を体験できる場所って、意外と少ないと思うんです。観光PRを通して、その“何もしない時間”を届けたいです。
Q6. 今後、取り組んでみたいことを教えてください。
日々忙しく過ごしている方が、ひと息つきにふらっと帰ってこられる場所をつくりたいです。
2024年は全国から17組34人の友人が訪れ、長期滞在する人もいました。「実家みたい」と言われたとき、この島が誰かの帰る場所になりつつあると感じました。
今後は、滞在中に島の暮らしや人とのつながりを感じられる企画を増やし、「帰りたい」と思えるきっかけをもっと作っていきたいです。

Q7. 地域おこし協力隊への応募を検討している人にアドバイスを!
まずは笑顔で挨拶をすることです。
急に知らない顔の協力隊員が現れると、最初は警戒されてしまうこともありますが、地元の人々との関係は挨拶から始まります。私の場合は、姿が見えれば笑顔で挨拶する、すれ違う車に手を振るくらい積極的にコミュニケーションを取りました。
最初は自分のことを話すのもためらいましたが、関係ができれば自然と話せるようになります。
「ここが好きで来た」という思いを少しずつ伝えれば、きっと町の人たちに受け入れてもらえます。
取材日:2025年5月









