Interview隊員インタビュー

にんにくも竹も、地域の宝に変える
富山県氷見市 三上 啓さん「向いていない」と会社を辞めた先で、農業と竹に出会った。
デスクワークの毎日に「飽きてきた」と感じていた三上啓さん。2020年、入社5年で、次を決めないまま会社を辞めました。
どこにも属さない空白の時間を「行ったことのない場所へ」と埋めるなかでたどり着いたのが、農家に泊めてもらう代わりに農作業を手伝う旅のかたち。岡山から九州を半年かけて縦断し、屋久島まで足をのばしたその途中で、もぎたての野菜のおいしさに出会い、農業にのめり込んでいきました。
実家が農家だったわけではありません。「安く旅をするための手段」が、いつの間にか「やりたいこと」に変わっていました。地元・富山へ戻ると、隣の氷見市が農業分野で地域おこし協力隊を募集していることを知ります。
こうして三上さんは2022年4月、氷見市の協力隊に着任。回り道の末にたどり着いた農業の現場で、にんにく、そして放置された竹林と出会い、暮らしそのものを氷見につくっていくことになりました。

富山県高岡市出身。地元のメーカーで生産管理として5年ほど働いたのち、2020年に退職。2021年、各地の農家を泊まり歩きながら半年かけて岡山から九州までを縦断。2022年4月、氷見市地域おこし協力隊(農業分野)に着任。
受け入れ先の農業グループ「まるまさファーム」とともに、農薬・化学肥料を使わない農作物づくりに取り組み、にんにく栽培の拡大(収量2022年150kg→2025年270kg)と黒にんにくの商品開発を進める。並行して放置竹林の整備に取り組み、メンマづくりのイベントや「ひみ竹林ネットワーク Team Viva Bamboo」を立ち上げた。
2026年3月に協力隊の任期が満了したのちも、氷見市でにんにく栽培と竹林整備を続けている。
Instagram@teamvivabamboo
Q1. 地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
2020年まで、メーカーの生産管理部門で事務の仕事を5年ほどしていました。毎日同じ作業のくり返しに飽きてきて、じっと座っているのが自分には向いていないなと。節目に「新しいことをしたい」と思い立って、次を決めないまま会社を辞めました。
ブランクの時間ができたので、行ったことのない場所に行ってみようと。旅費を浮かせたくて、農家さんのお宅に泊めてもらう代わりに農作業を手伝う仕組みで、岡山から九州をぐるっと回って屋久島まで、20軒くらいを泊まり歩きました。そこで初めて農業に出会ったんです。縁はまったくなかったのに、もぎたての野菜の本当のおいしさにどんどん夢中になって。自分も野菜をつくりたいと、地元の富山県高岡市に帰ってきました。
でもツテもなく、調べていたときに、ちょうど隣の氷見市が農業分野で協力隊を募集していたんです。自然を相手に、日々違う作業をしているのが楽しくて、自分の性格に合っているなと思いました。
Q2. 協力隊の活動ミッションを教えてください。
氷見市協力隊としての業務は「環境に優しい農業の推進」でした。受け入れ先のみなさんが農薬や化学肥料を使わない農作物づくりをされていたので、その担い手になること。あとは、土地の風土に合った特産品をつくり、付加価値をつけて売るための商品開発やマーケティングですね。竹林の分野は、もう私が勝手に入っていきました(笑)。
にんにくに力を入れたのは、1年目の実感がきっかけです。受け入れ先ではいろんな野菜をたくさんつくっていたんですが、高齢化が進んで人手が減っていくと、手をかけても収穫が追いつかない。せっかく実っても間に合わないことが度々あって。にんにくは栽培しやすく手間がかからないので、メンバーが年を重ねても、私が年を取っても続けられる。だからにんにくにフォーカスしていきました。
Q3. 活動1年目、2年目、3年目の計画はどのような内容でしたか?
正直、私はきっちり計画を立てるタイプではなくて(笑)。報告書はちゃんと書いていましたが、いいなと思ったものを拾い、無理なら手放す、という進め方でした。
1年目は、受け入れ先で野菜づくりを一から教わりながら、農業の基礎と地域に慣れる年でした。半日は農作業、午後は報告書やイベントの企画運営。研修やセミナーも多く、加工や販売の知識を少しずつ身につけました。手をかけても収穫が追いつかない現実を経験したのも、この年です。
2年目からは、黒にんにくづくりと竹林整備が本格化しました。黒にんにくは、高岡で加工している方に出会ったのがきっかけです。加工すれば付加価値が上がり、生のにんにくが食べられない方にも届く。賞味期限も長くなって、2年、3年経っても味が変わらない。私たちのにんにくを試しに黒にんにくにしたら、食べ比べてものすごくおいしくて。こだわっているのは、米ぬかやもみ殻、竹チップ、神代(こうじろ)温泉の鉄分豊富な水まで、地域の資源を100%使っていることです。受け入れ先の「まるまさファーム」は、定年退職した方が集まり「子どもや孫に安心して食べさせられるものを」という根っこがあるんです。
黒にんにくは、特に宣伝もしていないのに人づてに広がっていきました。神代温泉に置いてもらい、県外の人がお土産に買ったり、東京の方が送ってほしいと連絡をくれたり。通販はしていなくて、いまの規模はこの辺りで十分消費できています。
竹林は、地域の団体「まるまさファーム」のみなさんの竹林整備を手伝ううちにのめり込みました。切ると目に見えて綺麗になって、達成感がすごい。何もしなくてもどんどん生えてくるあの生命力が竹の魅力で、みんな「ここに来ると元気になる」って言うんです。印象に残っているのはメンマづくり。誰もつくり方を知らないのに「楽しそう、やってみよう」とトントン進んで。新しいことを誰ひとり嫌がらない人たちで、協力隊を終えた今年も地域の人と一緒につくりました。
任期最後の年、2025年3月には「ひみ竹林ネットワーク Team Viva Bamboo」を立ち上げました。少人数では整備が追いつかず、所有者さんはみんな同じ悩みを抱えている。横のつながりをつくりたくて、最初は15人ほど、その後SNSを見た方も増えて、1年で7人ほど会員が増えました。
Q4. 活動中、自治体・受入団体からはどんなサポートがありましたか?
受け入れ団体と自治体、二つの面からのサポートがありました。
受け入れ団体のみなさんには、本当に自由にさせてもらいました。「セミナーに行きたい」と言えば「行っておいで」と。自分のやりたいことを自分で決めたい私には、すごく合っていました。
市役所の方は担当者が変わることもあり、そのたびに信頼関係を築き直す難しさはありましたが、みなさん一生懸命サポートしてくださいました。地域の人に直接話しにくいことを間に入ってお願いしてくれました。
「もっと集まる機会を増やそう」と氷見市の協力隊が月1回集まるミーティングも始めてくださり、今も続いています。
困りごとやイベントの情報共有ができて、コミュニケーションが取りやすい。任期を終えた今でも「こういう補助金があるから使ってみたら?」とアドバイスをいただいたりと、関係が続いているのは本当にありがたいです。
Q5. 活動地である氷見市の魅力は?
もう、絶対に「人」です。
海産物やたけのこの産地として有名ですが、来て本当に思ったのは人がいいということ。会うたびに「大丈夫?」「引っ越し、落ち着いた?」と顔を見て声をかけてくれる。それが当たり前に飛び交っていて、あたたかい。長く農業に携わった方や大工さんなど、暮らしの知恵や技術を持った方が多いのも魅力で、移住者の私にはとても大きいです。
若い人が少ないのも、意外といいなと思いました。人が少ない分、何かすると目立って、みんなが応援してくれる。
そうやって応援してもらううちに気づいたのが、地域の人は「頼られる」のがうれしいんだ、ということ。協力隊は困りごとを助ける役割かと思っていたら逆で、こちらがきっかけをつくるだけで、みなさん前向きになってくれる。「いっぱい頼る」ことが意外と大事なんだと、後半になるにつれて分かってきました。
地域に溶け込むうえで一番大事にしたのは、挨拶です。顔を合わせるたびに元気に挨拶することを続けてきました。あとは、イベントをなるべくやること。準備から片付けまで地域の人と連携するので、必然的に会話が生まれるんです。
Q6. 今後、取り組んでみたいことを教えてください。
今は、にんにく栽培を続けながら、ひみ竹林ネットワーク「Team Viva Bamboo」の代表をしています。竹林整備の依頼を受けたり、講師や講演に呼んでいただいたり。2026年6月からは、富山県のグリーンツーリズム法人で農泊の企画やブランディングのお手伝いも始めました。一つのことをやるのが嫌で会社を辞めたので、いろんなことに携われて本当に面白いです。
今後やりたいのは、家の中でも竹を味わえる民泊です。外ではたけのこ堀りやメンマづくり、中では竹を燃料として使う薪ストーブを置いたり——どこにいても竹が味わえる場所をつくりたい。
それから今年の冬には、氷見で竹細工教室を開きたい。昔いた竹職人さんが今はいなくなってしまったので、もう一度復活させたいんです。先月、千葉県房総半島のグループ「房総竹部」さんのもとに視察に行き、孟宗竹で竹細工をつくる方たちを講師に呼んで、切り方から編み方まで学ぶ講座を開こうと話し合っています。最終的には、つくった竹細工がその方たちの収入になるところまでやりたいです。
拠点はずっと氷見市に置きたい、と思っています。やっぱり人がいいので。最近、築57年の中古の家を購入したのですが、協力隊時代に知り合った方が探してくれた家で、当時の人脈がなかったら出会えなかった物件です。納屋も広く、加工場や竹の資材置き場にしたいと思っています。
Q7. 地域おこし協力隊への応募を検討している人にアドバイスを!
あんまり、やる気を持ちすぎないほうがいいかなと思います。
地域には、それまでの習慣や積み上げてきた土台があります。やる気100%で入るとギャップが生まれ、トラブルになる話もよく聞きました。私も最初は「効率よく」と思っていましたが、地域の人には休むタイミングや作業の習慣がある。そこを尊重して、協力隊側が柔軟に動いたほうがいい。特に1年目は、自分の意見を言ってもいいけれど、地域の人の反応を見て、まずは従ってみる。信頼関係ができてきたときに、自分らしさを出していくのがいいと思います。
「力を抜く」と言いましたが、私が続けてこられたのは「自分がやりたいから」という気持ちが根っこにあるからです。農作物をつくれば自分も子どもも食べられるし、たけのこはここに来て一度も買ったことがない。誰かに言われてではなく、自分が欲しい、食べたいからやっている。それが一番のモチベーションです。
最後に——協力隊になって一番よかったと思えることは、「協力隊という肩書きがあること」だと思います。一市民が「ネットワークを立ち上げたい」と言っても「何者だ」となりますが、「地域おこし協力隊です」という肩書きがあると、「地域のために盛り上げようとしている人だ」と見てもらえる。自治体の人が挨拶回りに連れていってくれて、説明しやすい。だから地域に溶け込みやすかった。それがこの制度の一番いいところだと思います。
取材日:2026年6月
参考:ひみ竹林ネットワーク Team Viva Bamboo(氷見市移住情報サイト内)
https://himi-iju.net/teamvivabamboo_s/









