Interview隊員インタビュー
Vol.62 岐阜県白川村 - 大倉 暁さん「やりたいことをやる、ありたい姿でいる」
Q1.地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
大きく分けると、キャリア経験と人体実験。
もともと名古屋出身で、ずっと東海地方に還元する仕事がしたいと思っていました。特に岐阜県は自然や文化、人もすごく魅力的だけど、どこかそれを生かせていないとずっと感じていました。地域おこし協力隊も知っていたけど、自分のこれまでの様々なキャリアや趣味などを生かせる募集にあまり出会わなかった時に、白川村が「マーケティング担当」を募集していることを知りました。また、「白川郷」は世界遺産として著名な観光地ですが、土地本来の価値とはかけ離れてしまった薄いブランディングになってしまっていることを自治体自体が変えたいと思っていたのでこれはチャレンジのしがいがあるな、と感じました。
あとは、いろいろと環境が変わって、何が起こるかわからない確変的な時代になった中で、都会で人間都合・消費一辺倒な暮らししか知らない、できないのが怖いなと思いました。グローバル化が進んで、価値や文化が均一化されていくほど、ローカルの独自性こそに価値が生まれます。日本や、その土地にしかない文化や、いろんな環境でサバイブするためのノウハウやスキルを身につけながら、これまでのキャリアを生かして、さらに自分にできることを増やしていく。地域から求められていることと、自分ができること、やりたいことが重なったのが今の仕事でした。3年間はそんな修行の時間と捉えています。
Q2.日々の活動内容や活動を通じて感じていることを教えてください
白川村の協力隊の活動は、「空き家・移住対応」チームと「マーケティング」チームと2つに分かれています。僕を含めた3名に加えて、15年4月から4名が合流し、計7人で活動しています。
僕が主に担当しているのは、メディア対応や、観光コンテンツ開発やイベント実施、行政企画の分析や立案、村と企業とのアライアンスや、小中学校の社会教育、村内の勉強会のファシリテーターや、交流人口獲得に向けたイベントなど、地域全体のマーケティングに関わっています。今年は世界遺産登録20周年ということで、これまでにない、体感型・共創型の観光イベントとして、野外映画祭”CINEMA CARAVANin白川郷”を企画しました。
さらに、今年の春から、文化財の利活用を村内外の団体と考えていくため、築200年の合掌造り家屋を住居兼オフィススペースとして「住み開き」するべく借りて生活しています。 要は、村民と行政と村外の様々なプレイヤーとをつなげる、横串でさして連携するプロデューサーです。
一番感じるのは「地域おこし」という活動やスタンス自体が、関わる人を本当に幸せにしているのかな、ということ。実際に苦しんでいる地域もいるけど、倒れていたり、死んでいるわけではない場所を「起こしてあげなきゃ」という気持ちで関わることが、住んでいる人の誇りや自信を失うことになるし、それを強制するのは、隊員も自治体も住んでいる人も幸せではない。「課題」とか「解決」という言葉で考えると、打ち手は結局これまでのしがらみや慣習や思考からしか生み出せずに、結局変わりません。 自分たちが暮らし方や生き方に、どんなイメージを持っているのか。それを吐き出したり、形にする。協力隊としてやることは、課題に取り組むというより、一見関係のないことに見えても、暮らす中で、隊員が必要だと思ったことややりたいことをやる、ありたい姿でいることを通じて、結果的に村に変化を与えるきっかけになる、そうした過程を見てもらうことで、自分たちも自分の手の届く場で未来を表現しようと思うきっかけが生まれればと思います。 あとは、ご縁あって知り合った仲間や村民とは、楽しく気持ち良く過ごしたいし、「地域おこし協力隊ってやり甲斐がありそう!」と興味のなかった方にも知ってもらうのも現役隊員の仕事だと思います。僕たちはお揃いのツナギを制服に業務をしたり、些細な出来事でもSNSにアップしたり、毎日エンジョイしている様子を発信しています。
- ある一日の活動
- 6:30 [起床、ストレッチ、朝食、家事] → 8:30 [村役場出勤] → 9:00 [SNS発信・プレス対応] → 10:00 [観光イベント打合せ] → 11:00 [教育委員会打合せ] → 12:00 [お昼(役場でお弁当をみんなで)] → 13:00 [村内散策(村のお母さんと話したり)] → 15:00 [ワーキングスペースにて企画制作・メール対応など] → 20:00 [帰宅、夕食、読書、ネットチェック、残務対応など] → 23:00 [入浴] → 24:00 [就寝]
Q3.実際に暮らしてみた感想を教えてください。
まずは、典型的な中山間地域の山村、文化財保護など規制も多い自治体で、一期生の3人を受け入れていただき、前例のないことしかやらない僕たちの活動を理解・サポートしていただいている役場の関係者や、プッシュしてくれる村民の皆様には本当に感謝しています。村民1,700人の小さなコミュニティで暮らす息苦しさもあるし、まだまだ知らない人もいますが、顔なじみになりやすいし、役場や首長との距離も近い。コトに向かうのに、アイデアと情熱をボトムアップしやすい環境はとてもありがたいし、やりがいにもつながってます。
暮らしていて、隊員内でもよく話題になるのは、この村は本当に協力隊が必要なのか? ということ 笑。 もともと山奥の山村で「結」という労働力の貸し借りが習慣として残っているように、助け合う、声を掛け合う文化は今でも残っています。お祭りや、仮装大会、文化祭など、地域行事にかけるパワーが半端ない。地域おこししなくても、そもそもここは倒れてないですよ、みたいな。
人と人との距離が近い、顔を見知っている環境で暮らすというのに、最近やっと慣れてきて、落ち着くようになりました。逆に都会に出張に行って、知らない人がたくさんいると落ち着かなくなります。あと、陽が昇ったら起きて、暗くなったら帰ってご飯を食べて寝る。自然のリズムに寄り添う暮らしで、すっかり朝型になりました。
Q4.今後の目標を教えてください。
もっとこの土地に関わる人の多様性の幅を広げることと、村にもそれを受け入れていただくこと、合掌造りや風景ただ「見る」だけではなく、歴史や自然、人を「感じられる」ような場所としてのリブランディングを進めたいと思います。
結果的に、協力隊という存在がいなくなっても、その土地が自分たちで自走して、予想していない未来を描き、たどり着けるようにできるのが理想です。
さらに、こうした白川郷の変化を起点に、日本の多くの観光地が、それぞれの方法でポジティブな変化が生まれるようになって欲しい。日本だけでなく、国境や人種を問わず、それぞれの場所で住まう人たちがポジティブな変化を生み出せるきっかけになれるように、動き続ける、波をたて続けたいと思います。
Q5.地域おこし協力隊への参加を考えている方にアドバイスをください。
気になる自治体があったら、現地に行って確認するのが一番です。地域の人とのつないでもらい方、着任後のフォローなど、知ってる人がいない、住む場所も仕事も変わる、というのは予想以上にストレスになります。その土地の雰囲気が自分の肌に合うか、直感も大切です。
また、これは受け入れる自治体にも言えることですが、定住することがゴールではないし、最初から定住ありきで気負わずに、キャリアアップ・チャレンジとして捉える方がミスマッチが少ないと思います。自分がやりたいこと、ありたい姿になるきっかけとして、地方に移住したり、協力隊という制度を賢く利用する。その地で過ごした経験や、いた足跡は、確実に隊員にも自治体にも変化を与えます。そうして結果が、定住につながればいいし、住まなくても、地域と関わったり、還元できる方法はたくさんあります。ただし、お膳立ては誰もしてくれません。自分で課題とゴールを決める、スタートアップな心持ちが必要です。
僕たち7人も、最初に考えてきた未来から、大分違うし、これからも変わっていくと思います。そうした揺らぎも含めての経験が、個人の人生にも地域にも、長い目で見て糧になると信じています。
PROFILE / 大倉 暁さん
- 年齢
- 34歳
- 着任年月
- 2014年4月
- 出身地
- 愛知県名古屋市
- 前職
- サラリーマン
- 隊員になって良かった事は?
- 行政の仕組みに入り込み、若い世代の意見やアイデアを地方・中央自治体に埋め込める。日本中に隊員ネットワークができて、どこにいっても美味しいお酒とご飯にありつける。 全国を飛び回って、知られざる風景や、魅力的な人たち、忘れられない出会いに出会える。
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